買ったばかりの黒いジャケットのLPを小脇に、僕は日本橋の電気街を走っていた
日本橋のオーディオショップでは顔だけは知られていた。何しろ試聴ばかりで一向に買わないが、代わりに何組もの友人を紹介してくる
オーディオに狂った高校生だったからだ。
このPINKの新しいアルバムを出たばかりのVictorのSX-5で聞きたい。
僕の頭にはそれしかなかった。
シマムセンの店員に息を切らせながら試聴の希望を伝えた。
「その様なSPは無い」と店員は愛想が無かった。
彼は新人だった。
日本橋の何処の店の何階に何が置いてあるか、僕が知らない訳はない。
彼はその事を知らなかった。
「3階に置いてあるやん!? この新しいPINKをSX-5で聞きたいねん。」
僕はしつこかった。
奥から出てきた年配の店員が新人に囁いた。
店員は渋々僕を3階の試聴室に上げてくれた。
甘い目だけど良く伸びた低音と刺激の少ない高音は果たしてPINK FLOYDに
合っているのかどうかに興味はあった訳だが、
「狂気」が流れ始めたとたんSX-5への関心は消えてしまった。
昨日、梅田のヨドバシカメラでPINK FLOYDの狂気をようやく買ってきた。
何度か尋ねてみたが売り切れだったのだ。
そして今日、聞いた。
どうしても大きめの音とマルチチャンネルで聞きたかったので、
今日まで辛抱したのだ。
そして聞いた。
何処かの雑誌に誰かが、このアルバムを次のように評していた
「途中から聞けないし、途中で止めることの出来ないアルバム」
うむ...まさに言うとおりである。
僕は、またしても聞いたとたんに固まってしまった。
そして、まだ寒かった30年前の3月にフラッシュバックしてしまっていた。
マルチで聞くべきSACDである。
そして30年前の作品に脱帽 m(_ _)m